野尻抱介『太陽の簒奪者』

太陽の簒奪者 (ハヤカワJA)

太陽の簒奪者 (ハヤカワJA)

謎の知的生命体と思われる存在が、突如として水星に工場のようなものを建造し、太陽の外周に大量のナノマシンで形成された巨大なリングを創りだしていく。そのリングが黄道と平行に配置されたものだからさあ大変。日光が遮られ、地球の日照時間は徐々に減少していき、大規模な気候変動によって地球環境は一歩ずつ氷河期へと向かっていく。人類滅亡の日は目前に迫る。異種知性体の圧倒的なテクノロジーを前にして、人類は生き延びることができるのか?

おもしろいのが、異種知性体は人類を滅亡させるために太陽の周りにリングを作ってるわけじゃないってところで、そのことがリングを破壊することに対していいしれない悲しさを付け加え、物語を味わい深いものにしている。

第二部からはやや趣が変わりファーストコンタクトものになる。ありとあらゆる手段を使って異種知性体とコミュニケーションを図ろうとするのだけれど、向こうはうんともすんとも言ってくれない。でも近付くと攻撃されるので認識されてないわけではない。この圧倒的な無関心はどういうことなのかというところを認知心理学の領域にまで踏み込んであれこれと推測するところがいい。

物語の最後あたりの異種知性体の描写はちょっと……と思わなくもなかったけれど、スタンリー・キューブリックも映画『2001年宇宙の旅』で異星人を登場させようとしたことがあって、その際は斬新な異星人の形態のアイディアが出てこなかったので、取りやめてモノリスだけを出すようにしたというエピソードがあるくらいで、異星人のデザインはなかなか難しいのだと思う。

SFの要素を濃縮したような作品だから、SFに慣れているひと以外にはおすすめできないが、リングの目的はいったい何かといった謎を推測するおもしろさもあって、ミステリとして読んでも傑作と言えるだろう。