サイモン・シン『宇宙創成』

宇宙創成〈上〉 (新潮文庫)

宇宙創成〈上〉 (新潮文庫)

宇宙創成〈下〉 (新潮文庫)

宇宙創成〈下〉 (新潮文庫)

ふだん科学読み物なんてまったく読まないんだけど、これがめちゃくちゃおもしろかった。

物理学者たちがいかにしてビッグバン宇宙論に至ったのかをたどる二千五百年に渡る歴史を、軽妙洒脱な筆致でありありと描き出す。

記述がとことん論理的でスマートなので、自分みたいな門外漢でもとても理解しやすい(あるいは理解したような気分になる)。

ぼくはこれまで天体物理学についてなんとなく初歩的なことはわかっているようでいたけれど、実はまったくなにひとつわかっていなかったということがこの本でよくわかった。

宇宙がたえず膨張を繰り返しているというのはいまなら小学生でも知っている常識だ。それは遠方の銀河から発せられる電磁波のスペクトルがドップラー効果によって赤方偏移しているという観測結果から導き出される。しかし、よくよく考えてみると不思議だ。スペクトルが赤方偏移しているということを導き出すためには、銀河がどういった物質で作られているのかを調べなければならない。光の速度で二百万年もかかる場所にある天体を構成している物質をいったいどうやって調べればいいのか? そもそも光の速度で二百万年かかるというのはなぜわかるのか? 銀河までの距離はどうやって測ればいいのか?

物理学者たちは次から次へと湧いてくる謎に立ち向かい、地を這うような観測と真に驚くべき発想でそれを打ち破っていく。新事実によってそれまでの常識が音を立てて崩れ去るさまは、まるで特級のミステリのように心を震撼させるものがある。