ポストメディア編集部『メイキングオブ マイマイ新子と千年の魔法』

メイキングオブ マイマイ新子と千年の魔法

最近どうも涙もろくなっていてよくない気がする。映画『マイマイ新子と千年の魔法』を観て思わず泣いてしまう。アニメを観てこれほど感動したことっていままでに無いかもしれないと思う。

舞台は昭和三十年の山口県防府市。田舎だからもちろん周りは山と田んぼしかないのだけれど、そこは千年前であれば周防国の都だったかもしれない場所だ。ひょっとすると、はるか昔には大きな屋敷がたくさん立っていて、大勢の貴族が暇を持て余していたのかもしれない。主人公である少女の新子と都会から引っ越してきた貴伊子はそんな空想に遊び、幼少の清少納言が生きる千年前の都に思いを馳せる。

少年少女の友情の物語を軸にして、平安時代の情景を軽やかに現出せしめ重ね合わせる手法は驚くほど巧みだけれども、それ以上に小さな物事、道端に咲く花であるとか、なにげない人物の仕草、着ている服や髪型、家具、街並み、机の上の小道具、それらのちょっとした物、ひとつひとつの小さな要素が幾重にも組み合わさり映画を形作っていて、平板になりがちなアニメーションという大きな嘘にリアルな重みのある質量を与えている。

特筆したいのが花の描き方で、草花はこの映画の影の主人公と言っていいくらい華やかで美しく、それだけで何度も観たいと思わせるものがある。この本の「マイマイ植物図鑑」の章では映画に出てくる花の名前などが詳しく解説されていて、買ってよかったと感じる。ぼくの出身は防府市にわりと近い島根県の益田市というところなのだけれど、田んぼのすぐそばに彼岸花(地元では曼珠沙華と呼んでいた)がたくさん咲いていたり、ああ昔はこんな感じだったなとしみじみとしてしまう。

そう言ってしまうと単なるノスタルジーに浸るための作品と思われるかもしれないけれど、まったく違う。まさに魔法のようなとても素敵な作品だと思う。