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アルべルト・モラヴィア『軽蔑』を読む。サルトルは「地獄とは他者である」と言ったが、この作品はまさに他者という地獄を執拗に描き出し、読者を困惑せしめ、陰鬱な気分に叩きこむ。すさまじい。これほど生々しくて苦々しい小説もなかなか無いんじゃないだろうか。

主人公の男とその妻は夫婦生活を始めて二年になる。金銭的に苦しむことはあるにせよ、ふたりは共に愛しあい、日々をなんとかうまく過ごしていた。しかし、とあるちょっとした事件をきっかけとして、妻の夫に対する愛情が忽然と消え去ってしまう。ほんとうになんでもないようなことなのだけれど、それは妻にとっては決定的だった。男はなぜ妻が自分から離れていくのかがわからない。妻も寡黙な性格ということもあって、自分自身の冷め切った感情をうまく説明することもなく、関係を修復することを放棄してしまう。妻に捨てられることを恐れるあまり、男はなにが問題だったのかを執拗に問いただすが、それがさらに妻をうんざりさせる結果をもたらす。最後にはふたりの関係は破綻するしかない。

彼女はわたしの言葉通りに長椅子に腰はおろしたが、我慢ができないというようにわたしに答えた。「話すことなんて何もないわ。あなたをもう愛していない、それだけよ……」

分別を失うまいとすればするほど、言いようのないあの苦痛のとげがわたしの胸に食い込んだ。わたしはやっとの思いで笑みを浮かべると言った。「しかし、きみだって少なくとも、ぼくに説明をしなきゃならないことは認めるだろう……。女中にひまをだすときだって、その理由は伝えるからね……」

「あたしはもうあなたを愛していないのよ。それ以上言うことは何もないわ……」

「だけど、どうしてなんだい? 以前は、きみはぼくを愛していたじゃないか、そうだろう?」

「ええ、とっても愛していたわ……。でも、今はもうおしまいよ」

「ぼくをとっても愛していた?」

「ええ、とっても……でももう、おしまいよ……」

「いったい、どうしてなんだい?……何か理由があるだろう?」

「たぶん……。でも、それは説明できないわ。あたしにわかっているのは一つだけ、それはあたしがもうあなたを愛していないということよ」

「いつまでもそればかり繰り返すのはやめてくれないか!」わたしは思わず声を荒らげて叫んだ。

 「あたしに繰り返させるのはあなたよ……。あなたが納得しないからよ……。だから繰り返すのよ……」

なんでこんなつらい小説を読まなければならないんだ……。