アントニイ・バークリー『毒入りチョコレート事件』

毒入りチョコレート事件【新版】 (創元推理文庫) 

舞台はロンドン。友人宛に送られてきたチョコレートを食べたベンディックス卿夫妻は危篤状態に陥る。チョコレートには致死性の毒物が混入されていたのだ。夫人はあえなく死亡し、夫は生き残る。この殺害計画を企てたものはだれなのか…。

ここまでならごく普通のミステリなのだけれど、この小説が非凡なのは、探偵が六人もでてくることだ。

スコットランド・ヤードも匙を投げた難事件を前にし、「犯罪研究会」のメンバーの六人の探偵たちによる推理合戦が繰り広げられる。謎に対する解答がしめされるもののそれはあっという間に覆され、新たな真相が語られる。しかしそれもあっという間に覆されまた新たな真相が…という展開が延々と続く。この小説、八割くらい解決編なんだけど…。

古典ミステリにおけるマスターピースであることは間違いないが、やはり80年前の小説ということもあって古めかしさは否めない。いや、というより80年前の段階でミステリはここまで到達していたんだと考えるとけっこうすごい感じはする。

舞城王太郎ディスコ探偵水曜日』の元ネタの清涼院流水『ジョーカー』の元ネタの中井英夫『虚無への供物』の元ネタですな。  

アントニイ・バークリーがフランシス・アイルズ名義で発表した『殺意』という作品は倒叙物ミステリの傑作と言われているのでそちらも読みたい。