フォークナー『死の床に横たわりて』

死の床に横たわりて (講談社文芸文庫)

死の床に横たわりて (講談社文芸文庫)

今となっては、父の口癖だった、「生きてるのは、つまりは、長いあいだじっと死んでいれるようにと準備する為じゃ」という言葉しか思い出せない。が、あの生徒たちと顔をつき合わせてひとりひとりが秘密の利己的な考えをいだき、お互い同士も、また私にとっても無縁の血の流れてる小僧っ子たちと日ごと顔をつき合わせて暮らさねばならず、父のいわゆる死ぬための準備として、これしか道がないことを思うと、そもそも私を生ませた父が憎らしくなってくるのだった。生徒たちが失策をしでかすのが待ち遠しかった。鞭で打ってやれるからだ。鞭がぶちあたる時、それは私の肉にぶちあたるのだった。傷あとがつき、ふくれ上がる時、流れるのは私の血であった。鞭の一打ちごとに、私は思った、さあ、これが私ってものよ、と。今こそ、私ってものが、お前の秘密な利己的な生活の中につき入って、私の血でお前の血の中にいついつまでも痕をつけたのだ、と。