「招かれざる客」

招かれざる客 [DVD]

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アガサ・クリスティーの同名戯曲を映画化した作品だと思って観てみたら全く違っていた。しかし勘違いから偶然観てみた映画であるにもかかわらず、歴史的な傑作と言っていい作品で驚いた。

知的でリベラルな思想を持った白人夫婦の娘が唐突に黒人の男を連れてきて結婚したいと言い出す。その男がだめなやつなら「娘はやらん」と一喝できるのだがむしろ逆で、非の打ち所のない経歴を持ち人格も立派といえる人間であった。両親は男の肌の色以外に結婚を否定する理由がない。理由がないのだけれど、悩む。しかし両親たちは確固たる信念を持ち、差別が不当なものだとわかっているし、人種間の諍いを憎んでいるとさえ言ってもいい。もちろん娘にもそのように教育している。どんなことがあっても人種差別は悪であると。それゆえに娘は自分の結婚相手に黒人を選んだとも言える。だからこそ余計に結婚を否定する理由がない。ないのだけれど、やっぱり悩む。

人間の感情はロジックではない。いや、突き詰めればロジックかもしれないけれど、単純なものではけっしてない。だからこそ文学が存在するのだ。

この映画は1960年代のアメリカ社会の人種差別をテーマとして扱っているがそれだけの領域に収まっていない。不条理な人間の精神というもっと普遍的なものを描いている。だから時代を経ても古くならない。本物のクラシックとはこういうものだ。