J・M・クッツェー『動物のいのち』

動物のいのち

動物のいのち

『エリザベス・コステロ』と同じく、クッツェーの分身である女性作家エリザベス・コステロが主人公。基本的に講演録という形をとっているが、それだけにとどまらない小説である。

クッツェー自身もそうだが、エリザベス・コステロベジタリアンで動物の肉を食べない。その理由についてエリザベス・コステロは「ユダヤ人が動物のように虐殺されたと同じように、動物がユダヤ人のように虐殺されている」とホロコーストと屠殺を同列に語る。むちゃくちゃである。あたりまえだが、ユダヤ人が動物のように殺されたからといって動物がユダヤ人のように殺されているわけではない。その論理が破綻しているのは本人にも薄々わかっていて、『エリザベス・コステロ』でそのような発言を後悔してたりもするのだが、この作品でも講演の参加者に完全に論破されている。そして最終的にはとにかく気持ち悪いから肉を食べないんだみたいな個人の趣味の領域に突っ走って行き、なんだか情けない気分が読者に残される。こういうみっともなさを描いたらクッツェー以上の作家はいない……。