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恒川光太郎『秋の牢獄』

秋の牢獄 (角川ホラー文庫)

秋の牢獄 (角川ホラー文庫)

ぼくは登場人物が同じ日を何度も繰り返す時間SF、いわゆる「ループもの」が好きで、目についたものは片っ端から読むことにしている。

ループものにはだいたいの定形がある。時間がループしているのを自覚するのは主人公ひとりというのが一般的で、周りの人間はループに気付かない。永遠に続くループから脱出するために主人公が奮闘し、ループを抜け出すためのなんらかの鍵を見つけ出すというのがよくあるパターンだ。

短篇集『秋の牢獄』所収の表題作は、よくあるループもののように見えてふたつの点でちょっと違う。まず、主人公ひとりだけが時間ループするのではなく少数人が同時に時間ループしていて、それについて各自が自覚的だというのがひとつ。さらに、時間ループがいつか終わる日が来るというのがおぼろげにわかっていて、登場人物たちはそれを漠然とだが恐れているという点がふたつめだ。

普通、ループものの作品は登場人物がループから抜け出すためにあれこれと手段を尽くすのだが、「秋の牢獄」ではループがいつか終わるのがわかっているため、むしろこのループがいつまでも続けばいいのにという逆転した感情が生まれている。そこがユニークでおもしろい。