ヘンリー・ジェイムズ『鳩の翼』

鳩の翼(上) (講談社文芸文庫)

鳩の翼(上) (講談社文芸文庫)

鳩の翼(下) (講談社文芸文庫)

鳩の翼(下) (講談社文芸文庫)

とんでもない小説だな……。

小谷野敦先生が『バカのための読書術』で「二十世紀文学の最高傑作かも」とおっしゃっていたので、そこまで言うならと思って読んでみたのだが、蓋しその通りだった。

この小説は、プロット自体はよくあるメロドラマでとくに目を引くものでもないんだけど、語り方そのものがすさまじい熱量を持っている。比喩表現と形容詞が過剰とすら言えるほど駆使され、登場人物達の微細な心理をこれでもかこれでもかとえぐり出していき、圧倒的な読書体験に読者は巻き込まれていく。近代小説の頂点と言ってもまったく言い過ぎではないし、小説というのはこれほどまでのことができるんだと戦慄すら覚える。

ヘンリー・ジェイムズの作品は、日本では『ねじの回転』や『デイジー・ミラー』のような中篇のみが有名で、『鳩の翼』を含む後期の心理主義的小説と呼ばれる作品群はあまり広く読まれていないようだ。実際この小説の魅力を簡単に伝えるのはむずかしく、また部分的に文章を引用するだけでは要点がわかりにくいため、とにかく読んでみろと言いたくなるのだけれど、かなりヘビーで生半可な作品ではないから、読まれないのも無理もないのかもしれない。

でも、この小説はすごい。凡作千冊よりもこの本のほうがはるかに価値がある。およそ百年前に書かれた小説だけど、間違いなく百年後にも読まれているだろう。