グレッグ・イーガン『宇宙消失』

宇宙消失 (創元SF文庫)

宇宙消失 (創元SF文庫)

量子力学の理論では、観測される前の事象は重ね合わせの状態にあって状態を確率でしか表現できないのだが、観測を行うことによって波動関数が収縮し事象の状態が確定するとされている。

しかし、こう考えてみるとどうだろう。重ね合わせの状態にあるなんらかの事象に対して、自分に都合の良い状態を選び出し波動関数を収縮させることができれば、自分の都合の良い状態の観測結果を生み出すことができるはずだ。つまり何十億の可能性から一つの観測結果を選び出すことができる。だからサイコロを振って一のゾロ目を何十回も連続で出すことなど朝飯前だ。

あまりに荒唐無稽でスケールの大きいストーリーなので笑ってしまいそうになるけど、論理的には破綻していないし、人間原理をとことんまで突き詰めたらこんなばかばかしい話になるのだなあと楽しく読んだ。

ミステリにトンネル効果を取り入れたのは世界でも清涼院流水だけだろうが、密室トリックに量子テレポーテーションを取り入れたのはおそらくイーガンだけだろう。

あと、読むまで知らなかったけど、うえお久光の『紫色のクオリア』の元ネタはあきらかにこの作品ですね。