莫言『酒国―特捜検事丁鈎児の冒険』

酒国―特捜検事丁鈎児の冒険

酒国―特捜検事丁鈎児の冒険


ノーベル文学賞受賞!

莫言の代表作は知名度から言っても『赤い高粱』となるだろうが、ミステリマニアの間で知られているのはむしろこの作品ではないだろうか。

特捜検事である丁鈎児(ジャックと読む)は、権力者たちの酒宴で嬰児の丸焼きが振舞われているという情報を元に、奇怪な食人事件の潜入捜索を行うため酒国へと赴くが……。というハードボイルド風のストーリーが主線としてあるのだけれど、作者である莫言を私淑しているという文学者志望の学生と莫言自身との往復書簡と、学生から莫言の元へ送られてくるいくつもの奇妙な短編小説が合間合間に挿入され、それの影響を受けて丁鈎児の物語までもが奇妙な方向へと変化していき、ついには混沌の渦に巻き込まれていく……。

つまり、小説の中の小説が小説の中の作者に影響を与えて小説の中の別の小説の物語がねじ曲がっていくというアクロバティックな構造になっていて――こんなの文学オタク以外の誰が読むんだよって感じだけど、擬音を多用したリズム感のある文体と猥雑なストーリーと奔放なユーモアで読者をぐいぐいと引きこんでいく。

メタフィクションをやろうと思ったらこれくらいの力量が必要というのがよくわかる作品。J・M・クッツェーなんかが好きなひとにおすすめしたい。結構グロいのでそういうのが好きなひともどうぞ。