E・M・フォースター『ハワーズ・エンド』

ハワーズ・エンド (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-7)

ハワーズ・エンド (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-7)

わたしは世界の魂そのものが経済的なものではないか、一番恐ろしいのは愛情のなさではなくて金のなさではないかと思い始めたんです。

ヘレンやわたしは人のことをとやかく言いたくなるとき、わたしたちはそういう島の上にいて、他の人たちの大部分は海の水面の下にいるんだっていうことを考えなければならないんです。貧乏な人たちは自分が愛したい人たちの所まで行けないし、もう愛さなくなった人たちから離れることもできないんですから。

緯がなんだろうと、現金が文明の経なんです。わたしたちは金というものについてわたしたちの想像力を働かせなければならなくて、それは金が、――世界で二番目に大事なものだからなんです。だれもがその金については黙って知らん顔をしていて、はっきりと考えようとしない。――勿論、経済学というものがありますけれど、だれも自分の収入についてはっきり考えるということをしなくて、独自の思想が十中八九は独自の生活を許す収入の結果だということを認めたがらない。大事なのはお金なんですよ。