森橋ビンゴ『東雲侑子は短編小説をあいしている』

東雲侑子は短編小説をあいしている (ファミ通文庫)

東雲侑子は短編小説をあいしている (ファミ通文庫)

この小説の存在自体はずっと前から知っていた。しかし、このタイトルを見て、どうせ文系男子の都合のいい妄想みたいな作品だろうと高をくくって読む気がしなかった。が、この小説のヒロインである東雲侑子の一番好きな短編小説はガルシア=マルケスの『エレンディラ』であると知って俄然興味が湧いて読んでみる。

相手の気持がわからずに勝手にいらついたり、距離感がうまくつかめなかったり、思春期のもやもやとした部分をうまく描いていてまっとうな恋愛小説だと思う。それに、日本のジュブナイルに特有の暗くて湿っぽい感じがしてそういうところも個人的に好きだ。

ただ、この主人公はあまりにも主体性がないのが気になる。全てのアクションが東雲侑子から起こされるのにはなんだかなと思ってしまう。最後の行動も主人公の能動的なアクションに見えるけれど、あれだって東雲侑子の本心がわかってたからああ言えたわけで、結局文系男子の都合のいい妄想という印象は最後まで残る。

それにしても、東雲侑子は 『エレンディラ』のどこに感動したのだろうか……。もしもぼくが真面目な顔で「エレンディラ。私が一番好きな短篇集」って言われたらゲラゲラ笑ってしまう気がする。