ガブリエル・ガルシア=マルケス『族長の秋』

族長の秋 ラテンアメリカの文学 (集英社文庫 カ)

族長の秋 ラテンアメリカの文学 (集英社文庫 カ)

途方もなくすばらしい。  

地の文と会話文を分かたないどころか語り手までもが次々と目まぐるしく変化する文体に頭がくらくらする。

時間と空間が錯綜し、超現実的な出来事が次々と押し寄せ、圧倒的な暴力が描かれる。聖と俗のすべてを飲み込んで、卑近であると同時に清澄でもあり、破壊的なユーモアでカリブの独裁者の孤独を書ききって間然するところがない。

百年の孤独』 が神話であるとするならば、『族長の秋』はまるで道端の講談師が語る辻講釈のように猥雑な魅力に満ち溢れていて、読者は口をあんぐりと開けながらページをめくり続けるほかない。

渦巻く海のようにあらゆる物を飲み込んで最後には何も残さない。小説というものはこんなにもすごいものだったんだと気付かされる。

これほどの作品をいままで読んでいなかったのを恥じ入る。世界文学の傑作を選べと言われたら真っ先にこの作品に指を折るだろう。