アドルフォ・ビオイ=カサレス『豚の戦記』

豚の戦記 (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)

豚の戦記 (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)

ホルヘ・ルイス・ボルヘスとの共著もあるビオイ=カサレスの代表作。

同じアルゼンチンの作家でも、フリオ・コルタサルボルヘスとはまったく持ち味が違って、ラテンアメリカ文学の奥深さを感じる。

本作品は、世代間闘争が主軸となっている。

医療の発達によって社会には老人の割合が増え続け、手厚い社会保障制度に対する若者達への負担は日増しに重くなってゆく。老人たちに対する不満を爆発させた若者は老人を「豚」と呼び抗争を仕掛ける。もっとも老人たちに若者へ立ち向かう気力などあるわけもなく、ただただ一方的にめった打ちにされるのを恐れて逃げまわるだけなのだけれども……。

日本の将来もかくやあらんと思わされるストーリーではあるが、若者と老人の対立というのは世界中で何千年の昔からずっと繰り返されてきたことであって、特異な話ではなく普遍性があるテーマではある。

老人が次々と殺害されていくという物語はあらすじだけ見ると陰惨に思えるけれども、実際に読んでみるとその語り口はまるでシェイクスピア喜劇のようにシニカルなユーモアにあふれており、かつロマンスのエッセンスも含まれていてたのしく読んだ。

平凡な老人たちが主人公というあまりない設定も含めて筒井康隆の小説に近いものを感じたけれど、それは筒井がラテンアメリカ文学から強い影響を受けているからか。

ビオイ=カサレスは本作以外にもミステリやSF風の作品も書いているらしいのでそちらも読んでみたい。