エマニュエル・ギベール『アランの戦争』

アランの戦争――アラン・イングラム・コープの回想録 (BDコレクション)

ここにあるのは、戦争とは何かといった大きな問いではない。ひとりの人間の生とはなにかについての、最終的な解答のない具体例なのである。

国書刊行会の「BDコレクション」三作目。現在のところ「BDコレクション」はこの作品が最後となっている。

この作品については、上に引用した堀江敏幸の解説が簡にして要を得ている。

なにも特別なことはない平凡なアメリカ人の青年アラン・イングラム・コープ。彼は第二次世界大戦という大きな物語の中に否応なく放りこまれ、過酷な運命に翻弄される。しかし、この作品には激しい戦闘や激情的なロマンスは出てこない。ユーモアあふれるタッチで、淡々と一人の男の戦争という青春を描いていく。

事実を元にした作品なので、教訓とかテーマとか解答といったものはない。作者が実在のアラン氏に話を聞きそれをマンガにするという形式で作品を描いている。そのため、祖父から戦争の思い出話を聞くような、不思議な昔話のようなおもしろさがある。

この作品はストーリーもすばらしいのだけれど、何よりも驚くべきなのは絵だ。ちょっと見ただけでは信じがたいのだけれど、なんとペンや筆をほとんど使わずに描いている。下の動画が作画風景のビデオなんだけど、紙に水を含ませてそこにインクを流しこむという手法を使っていて何度見ても不思議だ。ふっと絵が浮かび上がるところなんてまるで魔法のように思える。

また、この作品は全編モノクロだが、カラーページが3ページだけある。それがまたとても印象深い。

「BDコレクション」はこれまでに読んだことのない深い味わいを持った作品ばかりだった。ぜひ二期を期待したい。